「この子今日はじめてで、なんと22歳なんだって。ゲイバーも初めてみたいなのよ。しんちゃん若い子好きでしょw」
ママから紹介されたひとつ席を空けた先に座っているのは、高校生?と思わんばかりの幼い顔立ちの男の子で、少しむっちりした体型にツルツルしていそうなきれいな肌は確かにしんじが好きなタイプだ。
しかし、ママがこうやって客を振ってくるときは、この子の対応お願いねという合図。言い方が悪いが、ママが対応に困ってしまった客を押し付けているという状況だ。
「ゲイバー初めてなの?」
しんじがその子に話しかける。
「はい。こういう場所初めてで、どうしたらよいかわからなくて」
その子が細い声で答える。
「しゃべりにくいから、こっち詰めてきなよ。」
しんじが隣の席に移動するように促すと、少し照れているかのようなしぐさで移動してきた。
「名前は?」
と聞いたしんじを、その子は困ったような顔で見つめた。
「こういう場所では本名をこたえる必要ないよ。呼んでほしい名前とかあればそれでもいいし。もし抵抗なければ、下の名前教えてよ」
しんじの問いかけに、意を決したようにその子が答える。
「ケンスケです。」
ゲイバーでは本当の名前を言わないいわゆる「源氏名」を使う人は少なくない。
本名がばれることで世間に自分がゲイであることがばれるのを防ぐためのリスクヘッジだ。
とはいえ、一般人がいろいろな名前を使って活動するのは大変なので、大概が本名にあわせたあだ名や、ファーストネームを使っていることが多い。
「〇〇子」や「〇〇江」などの源氏名をつけられている人もいるが、そういった方は大御所感半端ない感じの人である。
「ケンスケ君ね。22歳ってことは学生?近くに住んでるの?」
「今年から社会人になって、都内で一人暮らししてます。」
「新宿は初めて?」
「ずっと来てみたかったんですけど、今まで遠くて来られなかったので。」
ゲイバーではよくある問答であり、しんじも当たり障りのない質問を繰り返した。
ケンスケ君は地方の大学を卒業し、新卒で都内の会社に就職。
初めて親元を離れて一人暮らしを始めたばかり。
自分が男性に興味があることはわかっていたけど、どうしてよいかわからずネットでいろいろ調べていたけど何もできず、一人暮らしする場所を新宿の近くにしたけど、結局なかなか二丁目には出てこられず今日に至るという状況だった。
「二丁目の交差点曲がるときはドキドキした?w」
「はい。新宿三丁目の駅からドキドキしてすごく挙動不審な感じになっちゃいました。」
「わかるわかる。僕もいまだに交差点曲がるときは周りを確認しちゃうよw」
数分のやり取りの中でだいぶ緊張もほぐれてきたのか、会話も短文の返答だけではなくなってきた。個人的にはせっかく思い切ってゲイバーに来たのだから、楽しんで良い思い出にしてほしい。そんな老婆心を感じる年ごろになった自分に少し悲しみをおぼえたりもする。
次回:10歳以上年下のケンスケの恋バナとは!?
この記事を書いた人
- セクシュアルマイノリティの女性と友情結婚生活を継続中のゲイ男子。
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